採用プロセスの再設計 Part 1 生成AIが変えた「仕事探し」

生成AIの普及により、求職者は仕事探しの入り口から選考面接に至るまでAIを使い始めている。企業は求職者のこの変化にどう対応し、かつ高騰する採用コストを抑えるために採用プロセスをどう効率化すべきなのか? 文=田中 剛(Answers編集長)

就活・転職の新常識「AIで適職探し」

現代の就職活動において、生成AIの活用はもはや当たり前の光景となった。今年3月にある民間企業が実施した意識調査によると、就活生の69.8%が「AIを活用して自分に合う会社の情報を探している(または探せると考えている)」と回答している。これまでのAIの主な用途は、エントリーシート(ES)の作成や志望動機の添削、自己分析の壁打ち相手といった「文章作成のアシスタント」が中心であった。しかし今、その利用範囲は「自分にマッチした企業そのものを探し出す」という、就活の最上流工程へと急速に広がっているのだ。

従来の企業探しは、大手の就職ナビサイト(マイナビやリクナビなど)に登録し、キーワードで抽出するか、サイト内の検索機能を使うのが一般的であった。AIも搭載されているが、就活サイト内のAI機能は、原則として「そのサイトに広告費を払って掲載している企業」のデータしか検索対象にしない。

いま就活生の間に広まっているのは、Gemini、ChatGPT、Copilotといった、高度なWEB検索(ブラウジング)機能を持つ一般の生成AIツールを使った企業探しだ。AIの検索対象は、特定のナビサイト内に閉じられた情報にとどまらない。求職者はAIへの命令(プロンプト)を通じて、WEB上の広大な海の中から、自分とのマッチ度が高い企業を探し出す。

この「インターネット全体からAIで適職を探す」という手法は、すでに新卒の学生にとどまらず、20代の第二新卒や30代前後の「中途の転職希望者」の間でも急速に一般化しつつある。AIに自分のこれまでのキャリアやスキルを渡し、それを「抽象化」してネット全体から探させるのだ。AIを使えば、本人が思いもしなかった異業界の求人と出会うこともできる。タイパを重視し、自身の気質やライフスタイルに合った環境を求めるZ世代の転職者にとって、AIは適職探しのパートナーというわけだ。

ネット通販(EC)専門のマーケティング支援会社、これから(東京都)は、2012年の創業から200人以上の新卒者を採用してきたが、年々、採用が難しくなっていると感じていた。そこで同社は、ECサイト支援のために自社が開発した、〈AIを活用して専門知識がなくても簡単にネットショップの集客・広告配信ができる自動化ツール〉を、自社の採用活動に応用することを試みた。その結果は期待以上で、新卒採用でも中途採用でも、ナビサイトやエージェント経由でなく、自社の採用サイトからのエントリーが増えた。

同社が着目したのは、「自社の採用サイトから直接エンリーを獲得する」ことの可能性だ。求人ナビ媒体を中心とした採用活動は、能動的に仕事を探す顕在層が主な対象だが採用競争は激しい。だが、「自分にフィットする良い企業があれば話を聞きたい」と考える潜在層は数多くいるはずと考えたのだ。

問題は、どうやって潜在層に自社の採用サイトへ訪問してもらうかだが、「ターゲット層に広告を配信する」のは同社の専門領域だ。

これから 川村拓也取締役

「当社は、『類は友を呼ぶ』という仮説に基づき、既存社員の思考や経歴、行動特性をAIで分析し、SNS上から類似ユーザーを探し出して、採用PRを配信しました。そうして自社の採用サイトに誘導したのです。その結果、会社のビジョンや社風などをしっかり理解した上でエントリーしてくるので、新卒ナビサイトや転職サイト経由で来るエントリーよりも総じて熱量が高いという実感を得ました」(同社の川村拓也取締役)

同社は自社の採用活動のノウハウをもとに2023年に、求める人材像を設定すればSNSを使って潜在層にアプローチできる直接採用ツール『Chokusa(i チョク採)』をリリースした。このツールはすでに累計約300社に導入されている。

ここで前提となるのが、自社の採用サイトが充実していることだ。キャリタスリサーチの調査によると、就活生の約7割が企業の採用ホームページを「かなり目を通した」と回答している。ただし、各種の調査結果は、求職者が知りたい情報が不十分な採用サイトがあることも物語っている。

これからの場合は、まず、採用が上手くいっているといわれる企業の採用サイトを分析した。どのような情報をどのように伝えているか、求職者はサイトのどの部分を見ているのか。これに基づき自社の採用サイトを最適化した上で、ターゲット層のSNSにバナーを配信したのだ。

「弊社のツールはSNSに自動で求人バナーを配信し、各企業様が自社の採用サイトに誘導して直接エントリーを獲得するもの。そういう意味で、採用サイトの重要性を説いてきました。しかしいま、求職者の行動が、自分に合った企業をAIで探し出すと変化したことで、企業の採用サイトの重要性はさらに高まりました。『まず、AIに選ばれる必要がある』という観点が必要です」(川村氏)

現代の採用において企業側は、「求職者(人間)に見つけてもらう」だけでなく、「AIに見つけてもらい、推薦してもらう」という考え方が必要だ。すなわち、従来の「条件検索」から「AI検索」への転換だ。

AIは求職者の価値観を客観的に分析し、求職者に最適な企業を提示するために、インターネット上の公開情報を自動で収集し、企業のカルチャーを構造的に分析する。その際に重視するのが、企業の公式サイトだ。採用サイトの情報量、情報内容がAIからの推薦を獲得できるか否かを左右するのだ。

川村氏は、「盛り込むべき重要な情報は基本的には変わりませんが、AIが理解しやすい形式である必要があります」と指摘する。その注意点の一例が、「採用サイトの情報をすべてプレーンテキストで記載する」ことだ。

「現状では、生成AIクローラーは原則としてWEB上のテキストデータを読み込んで学習・検索します。求職者にわかりやすく伝えるために作成したイラストや図表の中の文字、写真の上に載せられた文字は無視される可能性が高い。また、会社の雰囲気を伝えるための社員インタビュー動画も、生成AIクローラーは自動的に参照しないので、やはり企業分析の材料にしません」(川村氏)

このほか、AIの特性を考えると、自社の「抽象的な強み」を具体的なキーワードで言語化することも必要だ。例えば、「社長室がなく、新入社員が直接役員に新規事業を提案できる文化」「個人ノルマはなく、部署全体の目標達成度で評価する制度」などだ。具体的に言語化することで、AIは求職者の細かなニーズと企業を結びつけやすくなる。また、構造化データ形式(FAQ形式など)での記載も有効だ。「〇〇職の具体的な1日の流れは?」「転勤の有無は?」「有給休暇消化率は?」といった明確なQ&Aを用意する。AIは「質問に対するダイレクトな回答」を好むからだ。

>>> 記事Part 2 「生成AIが変えた「採用活動」に続く

この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
目次