「理念」と「見える化」で組織を変える
三永(サンエイグループ)は、2024年に経営を次世代へと引き継いだ。先代が50年間守り抜いてきた三兄弟による共同代表体制から、その息子世代である従弟3人による共同代表体制へと移行。代表取締役社長に就任した李光辰氏は、創業の精神や「三方良し」の理念を受け継ぎつつも、「理念体系図」の明文化や「見える化」など、時代の変化に合わせた組織改革・制度改革を推進している。李代表に、これまでの歩みと未来への挑戦について話を聞いた。〔文中敬称略〕
聞き手=松林孝征(パック・エックス 社長)
松林 ご経歴を教えてください。
李 2005年に近畿大学を卒業後、韓国へ3年間留学し、2008年1月に三永へ入社しました。他社での勤務経験はなく、新卒で入社した社員と同じような形で社会人生活をスタートしました。現在、入社19年目です。海外留学中、一時帰国した際に、当時社長だった父(現会長)と一緒に自社店舗を回る機会がありました。会長は当時から自ら総付景品をお客様に配っており、私も何気なく同行しました。その時に出会った社員さんたちが、本当に生き生きと働いていたことがとても印象的でした。学生時代には出会ったことのないような、仕事に誇りとやりがいを持って働く姿を見て、「私もこんな社員さんたちと一緒に働きたい」と強く思いました。それが、三永に入社したいと決意したきっかけです。
松林 先代は三兄弟による共同代表制でしたね。
李 私の父(前社長)と2人の叔父(前副社長、前専務)の3人が代表取締役で、会社法上、全く同じ立場でした。そして先代の3人、つまり現在の会長、副会長は、「三永を長く守り、発展させていくにはどのような経営体制がよいか」を考え、血族による分社や争いを防ぐため、それぞれの家族から一人だけを後継者として会社に迎えるという方針を定めました。そして現在、私たち3人の従兄弟による共同代表制となっています。

松林 入社された当時のご自身を振り返ると、いかがでしたか?
李 正直に言うと、私は創業家に生まれ、恵まれた環境で育ちました。入社前は現場で働く社員さんの苦労や責任の重さを本当の意味で理解できていなかったと思います。おそらく父もそれをわかっていたと思います。三永に入社するために父が出した条件は、「経営者はどのような思いで会社を経営しているのか」を学ぶために、日本創造教育研究所の1年間の起業家養成スクールに通うことでした。
松林 そこではどのような学びがあったのでしょうか。
李 経営に必要なことを幅広く学びました。特に印象に残っているのは、経営者自身の姿勢が会社の未来を大きく左右するという教えです。常に自分を客観的に見つめ、学び続ける姿勢が大切だと厳しく教えていただきました。また、理念経営の重要性も学びました。理念を体現する経営者の姿を学んだ後に会社を振り返ると、現会長や現副会長が日々理念を実践していることに改めて気づきました。それまで見えていなかった経営者の思いに触れ、自分自身の会社への向き合い方が大きく変わった経験でした。
挫折経験からの学び
松林 入社されてからこれまでの体験の中で、今のご自分に最も影響を与えた経験は何ですか?
李 現場経験です。私は入社してから13年間、現場で経験を積みました。社員さんと同じ評価基準の中で一つひとつステップを積み重ね、一般スタッフからリーダー、主任、副店長、店長、営業副本部長、営業本部長を経て社長に就任したので、それぞれの役職の仕事を実際に経験してきました。社員さんと一緒に働いたこの経験を通して、仕事に向き合う姿勢や責任感、人を思いやる大切さなど、自分自身の考え方が大きく変わったと感じています。
松林 その間、挫折や伸び悩みを感じた時期はありましたか?
李 昇進できなかった時期が2回あります。1回目は主任の時です。社内の資格要件が見直されて試験の難易度が上がり、その試験に合格できず、「留年」となりました。この役職での留年は前例がなかったこともあり、自分にとって大きな挫折でした。2回目は副店長時代です。1年目は「誰よりも仕事をしている」という自負があるくらい、時間も気にせず必死に働きましたが、評価は34人中15位でした。2年目は「今度こそトップ3には入れたはず」と思うほど努力したにもかかわらず、結果は7位でした。「このままではいけない」と思いました。
松林 それをどうやって乗り越えたのでしょう?
李 1位から6位の副店長がどのような仕事の仕方をしているのかを見て回りました。そこで気づいたのは、当時の私は「自分視点」がとても強かったということです。一方で、上位で評価されている人たちは、部下の育成に力を入れたり、自分よりも周りの人やお客様が喜ぶことを一生懸命考えて行動していたりと、「相手視点」でした。私もその視点に切り替えた結果、副店長3年目には34人中1位の評価となり、本部から店長推薦を受けることができました。この経験を通じて、成果は自分一人の頑張りだけではなく、周りの人の成長や喜びを大切にすることで生まれることを学びました。

理念体系図とビジョンを明文化
松林 事業承継から丸2年が経ちました。新体制になって変わったこと、変えたことは何ですか?
李 事業承継と同時に、明確な「ビジョン」と「理念体系図」を発表しました。先代の時代から「いい会社にしたい」という思いは一貫してありました。ただ、先代は事業承継の際に新体制として自分たちなりの考えを形にできるよう、あえて具体化する部分を私たち新役員に委ねてくれていました。そこで私たちは、「三永にとって本当の意味での『いい会社』とは何か」を改めて整理し、創業の精神やロイヤリティ(企業理念・行動指針・社訓)を起点に、経営方針、教育方針、社風、行事までを一本の軸でつないだ「理念体系図」を作成したのです。
松林 その理念体系図のもとで掲げられたビジョンとは、どのような内容なのですか?
李 『私たち』がつくる お客様満足No.1 ~情熱を燃やせ!!「 夢」「感動」「喜び」へ~ というビジョンです。具体的には、「2035年までに総台数10,000台へのチャレンジ」と、「2035年までにエンターテイメントとしての新規事業へのチャレンジ」の2つを掲げています。新しい考え方を加えたというよりも、これまで社員さんが大切にし、一生懸命取り組んできたことを、誰もが同じ方向を向いて進めるよう、わかりやすい目標として言語化・明確化したものです。
松林 社内環境や仕組みの面の刷新はいかがでしょう?
李 社員さんや組織の状態を、これまで以上に見える形にしたことです。一例ですが、約25人の幹部社員の日報には、「今日気づいたこと」「困っていること」「相談したいこと」を記入する欄を設け、日々何を感じ、何を考えているのかを共有できるようにしました。この目的は、社員さんがイキイキ・ワクワクして働けない要因を早く見つけ、ミスコミュニケーションを減らすことです。また、社員さんにとって分かりやすい変化としては、事業承継のタイミングで本社を改装し、役員席を廃止して、新旧役員を含めてフリーアドレスにしたことがあります。

2026年 5つの重点課題
松林 2026年度の経営方針として、全社で取り組んでいる重点課題を教えてください。
李 「組織改革」「若手の抜擢」「AIのフル活用による業務効率化」「新規出店候補地の選定」「新規事業へのチャレンジと前進」の5つを重点課題として掲げています。組織改革については、かつての「100店舗構想」時代の組織体制を、現在の13店舗という事業規模に合わせて見直し、それぞれの部署の役割をより明確にするために進めています。また、変化の激しい時代だからこそ、幹部だけでなく若手の力も積極的に生かしていきたいと考えています。
松林 AIの活用と言えば、李社長はMIRAIぱちんこ産業連盟の「AI-PT(プロジェクトチーム)」リーダーも務められていますね?
李 正直、最初にお話をいただいた時の率直な感想は、「大変そうだからやりたくないな」でした(笑)。でも、以前から心に残っていた「頼まれごとは試されごと」という言葉を思い出し、「せっかくいただいた機会だから本気で取り組もう」と決めました。MIRAIを通じて、業界を代表する企業の皆さんと立場に関係なく、率直にAI活用について議論できる環境は、本当に大きな学びになっています。
>>> 後編(part 2)はこちらです(10/15公開予定)。

李 光辰(LEE KWANG JIN)
1983年1月生まれ。大学卒業後、海外留学を経て2008年に三永入社。一般職からスタートし13年間の現場勤務を経験の後、本社へ。2024年に代表取締役に就任。

構成=田中剛(Answers 編集長)


