店舗運営・経営

「20歳の娘が10分で帰ってきた理由」—パチンコ初心者を混乱させる圧倒的情報量

パチンコ初心者を阻む入店から着席までの認知負荷

日常生活の中で活用するスマートフォンのアプリや街中の最新設備は、驚くほど「説明書」がありません。初めて使うアプリでも、どこをタップすれば次へ進めるか、直感的にわかります。デザインの世界には「アフォーダンス(Affordance)」と呼ばれる概念があります。これは、人と道具との関係の中で成立する「行為のしやすさの可能性」を指すもので、人は過去の経験をもとに、説明されなくても、見れば/触ればどう使うかを予測できます。身の回りの道具やインターフェースは、程度の差こそあれ、こうしたアフォーダンスが知覚されやすくなるよう設計されています。
では、パチンコホールではどうでしょう。複雑化する遊技機のスペックや遊び方、多様な遊技機ラインナップや店内配置、台間ユニットやデータ表示器、会員特典や貯玉ルールなどなど。店内はお客様に「届けたい情報」であふれ返っています。しかし、それらは、どこまで認知されているのでしょうか。

良かれと思って発信している「大量の情報」が、実は新規客やライトユーザーの脳をオーバーヒートさせ、遊技を楽しむ前に「拒絶」を引き起こしているとしたら。

情報精査は「努力行動」である

私自身の話をすれば、ユーザー歴は約30年。公式LINEやSNSなど候補店舗の情報を事前にチェックする、遊技機のスペックや特性を事前に調べておく、というのはもはや当たり前で空気を吸うようなものです。どの店舗にも共通するような店内の遊技ルールは既にインプットされており、確認することはほとんどありませんし、島図のチェックは基本として来店前に済ませています。店内も含め店舗から大量に発信される情報を効率的に取捨選択する。この「努力」を面倒と感じることはありません。

しかし、これはあくまでも、情報を扱う術を知っている「ヘビーユーザー」の行動でありマインドです。自分が初心者、ライトユーザーだった頃はどうだったか……。正直、もう思い出せません。そこで、ある「実験」が頭に浮かびました。

今年20歳になったパチンコの「パ」の字も知らないであろう私の娘に、「小遣いやるから、一度パチンコ店で遊んで感想を聞かせてほしい」と頼んでみたのです。

意外にも娘の返答は「実は、興味あったんだよね」というものでした。どうやら、推しアニメの遊技機演出をInstagramのショート動画で見てから、気になっていたようです。これは今の若年層の典型的な入り口だと言えるでしょう。

パチンコ初心者の娘に体験させてみた

その依頼から数日後、娘を実験に・・・否、パチンコ体験に行ってもらうことに。体験の舞台に選んだのは、設置台数1000台クラスの店舗。ハード・ソフト共に充実した、活気のある優良店です。娘のお目当ては『スマスロ マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』。事前に、貸玉や賞品交換の仕組みをざっくりと伝え、「一人で行って、入店して、遊んで、帰ってくること」「わからないことはホールスタッフさんに聞くこと」というルールを課し、店舗とお目当て台の情報をインプットしてもらい(とはいえ、ほぼわかっていなかった)、いざ、体験へ。

朝の並びに参加するのは、流石にハードルが高いので、お昼過ぎくらいに入店できるイメージで送り出しました。「自分の娘がパチンコに興味を持ってくれた、業界に関わる者として嬉しいものだな~」などと感慨にふけっていたのも束の間、出発から90分が過ぎた頃、娘からLINEが…。

入店から10分後の「退店」—彼女の足を止めたもの

「もう、わけわからないし!帰るね」

うーむ、なんか、怒っているよな、この反応は…。けど、渡した小遣いがなくなるには早すぎます。おいおい、まさか……。とりあえず、電話して話を聞くと、嫌な予感は的中しました。娘は入店こそしたものの、お目当ての台にすら座れず、一度もレバーを叩くことなく退店したのです。

娘の感想はこうでした。「お店は綺麗だし、別に怖くもなかった。でも、『まどかの台(お目当て台)』を探すのすごく大変だったし、そこから他の好きなアニメを探すのも面倒そうだし。どこでどうやって遊ぶのかもよくわからないし、もらったお金とはいえ、わけもわからず使うのは馬鹿らしいよ」と。自宅からお店までの移動に1時間ちょい(昼ごはん込み)、入店からわずか10分ちょっとのことでした。

店内には島図もあれば、機種をPRするサイネージもあります。しかし、初心者の娘には、「いろいろありすぎて、なんだかよくわからない」となってしまったようです。さらに私が「なぜスタッフさんに聞かなかったの?」と尋ねると、「スタッフいないし!探すの面倒だし、そこまでしてやんなきゃいけないの?『もういいや』ってなった」というのです。はじめてのパチンコは、印象の悪い結果になってしまいました。

この反応を聞いて、私は背筋が寒くなりました。スタッフの呼び方もわからないのです。そうですよね…。遊び慣れた私にとって、「呼び出しボタン」はあたり前ですが、娘は知るはずもなかった。これは、初心者、ライトユーザーの「サイレント離脱」で、日常的に起こっているのではないか、と。

情報の海に放り出され溺れている

課題として叫ばれている「ライトユーザーの囲い込み」を阻んでいるのは、出玉感以前に、この「入店から着席までの認知負荷」という点に、あるのかもしれません。情報強者であるヘビーユーザーは、ノイズを切り捨てて必要な情報を拾う判断基準を持っていますが、娘のような初心者は、情報の海に放り出され溺れている、ともいえるでしょうか。では、パチンコホールにおける、初心者、ライトユーザーを迷わせない「アフォーダンス」とは何なのか?

次回、その方法を考察してみたいと思います。

文:アンサーズ編集部

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