(前編の続き)*前編はコチラ
AIによる効率化がホールのルーティン業務を担うことで、私たちは「人間だからこそ時間をかけるべき仕事」へとリソースを集中投下できるようになりました。前編では、この新しい仕事が「顧客の愛着を生む心の機微を察する接客」にあることを考察しました。
(後編)では、AIが提供する「最適解」に対抗する人間の価値、すなわちお客様が本当に求める「自分だけの空間」を現場でいかに創出するかを深掘りします。なぜなら、人間の心理は常に合理的な最適解を求めるわけではなく、「誰にも邪魔されない時間」や「自分の存在を認めてくれる安心感」といった情緒的な居心地の良さを求めているからです。
業界外のプロはこう動いた!
- 医療業界:電子カルテ化の先に確保した「傾聴の時間」
診察の予約やデータ管理が電子カルテで効率化される一方、一部の病院では、医師が患者への説明や問診にあえて時間を費やす「傾聴の時間」を制度化しています。これは、患者の不安という非合理な感情を取り除くことが、治療への意欲を高め、最終的な生活の質(QOL)向上という非効率なプロセスを成功に導く鍵であることを知っているからです。

- 高級ホテル:「あえて手書き」で伝えるメッセージ
チェックイン・アウトの手続きがアプリや自動精算機で効率化される中で、お客様が部屋に戻った際、コンシェルジュからの手書きのメッセージカードが添えられていることがあります。これは、「あなたのデータはAIが管理しているが、あなたの心は人が気にしています」という強力なメッセージであり、合理的なプロセスの中に意図的に「パーソナルな配慮」を創出する戦略です。
稼働に直結する「安心感」の作り方
パチンコホールは、遊技という「合理的な行為」が行われる場所であると同時に、お客様が「日常を忘れるための心の避難所」という情緒的な役割も担っているはずです。
「一人にしてほしい」という非言語なニーズに応える余白
たとえば、席を立って長時間休憩しているお客様に対し、「お声がけしない」という選択も重要な非効率なサービスです。「今は一人にしてほしい」という非言語のメッセージを察知し、あえて放っておくことで、「自分のプライバシーが尊重されている」という個人的な安心感を創出できるようになるはずです。特に、連敗が続いてイライラしている様子の時は、安易な声かけは逆効果である、ということは、もはやあたり前ともいえるでしょう。
しかし、この『あたり前』なことを徹底させることが大切なのです。
「人の想い」を伝えるストーリーテリング
たとえば、店舗の清掃スタッフが「顧客の遊技道具を丁寧に拭く姿」や、ホールの「地域清掃活動への真摯な取り組み」といった、遊技の結果に直接関係のない「人の想い」を静かに伝える掲示物を戦略的に配置する。これは、お客様がホールを「遊技の結果を求める場所」から「共感できる場所」へと意識を変えるための重要な仕掛けです。
従業員の「感性」を最大化する評価と育成へ
AI時代におけるホールの価値は、単なる効率性やデータ分析の優位性では決まりません。それは、「AIが担う合理性」と「人間が提供する非効率な温かさ」の戦略的な融合によってのみ生み出されます。店長・現場管理者に求められるのは、この「非効率な温かさ」をコストではなく「戦略的な付加価値」として捉え直すことです。そのために、明日から意識すべき「新しい行動原理」は、従業員の評価と育成の基準を「感性」にシフトすることです。

評価の基準を変える
「マニュアル順守率」や「作業スピード」といった合理的な指標に加え、「顧客の顔色を察知した特別なエピソードの数」や「顧客に安堵感を与えた会話の質」といった、情緒的な貢献度を評価項目に加えてみる。具体的には、日報の『気づき欄』に、単なる作業報告ではなく、非効率な温かさのエピソードを毎日一つ記入することを義務付けてみるのも有効です。
「非効率な対話」を義務付ける
スタッフミーティングで、今週一番の「心が通った瞬間」(例:遊技に関係ない雑談で顧客の笑顔を引き出した話や、あえて声をかけなかったことによる顧客の安堵)を共有させ、情緒的価値提供の成功体験を組織全体に浸透させる。
AIによって業務が高度化する今こそ、人間の持つ「感性」と「共感力」に光を当て、それを戦略的な武器とする経営判断が問われています。効率化で生まれた時間を「非効率な温かさ」に投資する勇気を持つことが、次世代のホールリーダーに求められるスキルといっても過言ではありません。
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